ミルクをスチーミングする。
フィルターをセットし、エスプレッソを抽出する。
その動作はどう決定されているのか。
そして湯温を一定に保つPID制御。
これらを学んで、最終的に温度制御を改良する準備をしたいと思います。
Silviaの構成部品と動作
まずは回路図を見ながら各部機能を認識しておこうと思います。
とはいえあまり難しい構造ではないようです。
メーカー回路図
長く使うお国らしく、マニュアルの最後に配線図が載っています。
Rancilio Silvia 120V User Manual
※「抽出サーミスタ(140℃)」と画像に書いていますが、すべて「抽出サーミスタ(100℃)」の誤りです。
基盤や電子回路などは無く、単機能の電気パーツの結合体でした。
電源ON
サーミスタはすべてボイラーに密着して取り付けられています。
そして常温では全て閉じ(ON)ています。
タンクに水をセットし、メインスイッチをONにします。
サーミスタ3つとヒーターによる”ヒーティングのループ”が通電し、ボイラーが温められます。
ボイラーが100℃に達すると、”抽出サーミスタ”がOFFになります。
するとループが切断され、ヒーターの加熱は止まります。
ボイラーはお湯の使用や自然放熱などにより冷えます。
ある一定温度まで下がると再び”抽出サーミスタ”はONになり、ヒーターが水を温めます。
これはSillviaの電源をONにしている間、繰り返されます。
抽出
豆を詰めたポルタフィルターをセットし、”抽出スイッチ”をONにします。
”ポンプ”が動作し、ボイラー内が9.0気圧まで高められます。
そして”3方向バルブ”が動作し、グループヘッドからフィルターへお湯が注入されます。
そうしてエスプレッソが抽出されます。
この動作は”ヒーティングのループ”とは全く切り離されています。
しかしポンプの動作により、ボイラーには冷水が入ります。
結果ボイラーの温度は下がり、ループによりヒーターがONとなります。
スチーミング
ミルクにスチーミングするため、ボイラーへ高圧の蒸気を貯めます。
”スチームスイッチ”をONにします。
”抽出サーミスタ”が切れても加熱を続けるループが作られ、”スチームサーミスタ”の設定温度140℃までヒーターがボイラーを加熱します。
その後、スチーミングを行うとボイラーが冷えるため、同様に加熱を繰り返します。
常温からスチームで加熱した場合、数分で”抽出サーミスタ”が切れる音が聞こえます。
途中100℃を超えたことがわかります。
サーミスタが温度のブレを生む
サーミスタを使った構成はシンプルだけど、OFFになる温度とONになる温度の差が大きい。
実際は出てくるお湯に10℃ほどの差があるそう。
1℃単位で味を変えるコーヒーにおいて、このブレはたしかに大きい。
Sillviaの回路はヒーターへの通電をサーミスタでOFF/ONしているだけという事がわかりました。
それならこの部分をもっと細かくOFF/ONできるデバイスに置き換えるだけで効果が出そうです。
抽出側だけでなく、スチームも制御を変える必要があるかはまだ不明。
ヒーター加熱>水蒸気化のスピードが遅い場合、こまめにヒーターをONした所で効果は薄いかもしれない。
本国モデルは1150W(220V)の急加熱ができるけど、我が家ではトランスを入れても850W(120V)という所。
スチーム消費に気化が追いつかないなら、大容量orデュアルボイラーでしか解決できないのかも。
市販PIDキットの仕組み
サーミスタを起因とする温度制御のブレ幅。
そのためセミコマーシャル機などではPID(Proportional-Integral-Differential)制御が利用されています。
メリットはたぶん以下の2つ。
- 1℃単位でヒーターのOFF/ONを行える。
- 目標温度を自由に設定できる。
SillviaにPID制御を後付するキットを数社が販売しています。
中でも使用記事が多いのはAuber Instruments, Inc.,のPID Temperature Control Retrofit KIT for Rancilio Silvia [KIT-RSRTDNb]。お値段$149.5。
抽出温度だけでなくスチーム温度を制御し、プレインフュージョン(抽出前の蒸らし)~抽出を自動化するモデル[KIT-RSPb]もあります。お値段$199.5。
素直に買うのもいいけれど、自作できないかな?
ということで構成を調べてみます。
回路図と基本動作
KIT-RSRTDN(抽出温度のみ)の配線図がマニュアルに記載されています。
KIT-RSRTDN Installation Guide Version 2.0
左が標準の状態。
右がキットを取り付けた状態。
”抽出サーミスタ”のみを取り払い、そこをSSRへ置き換えています。
SSR(Solid State Relay)は電磁石とバネを使わない無接点リレー。
高速、無音という特徴があります。
温度取得はサーミスタの代わりにRTD(Resistance Temperature Detector)をボイラーに取り付けて行っています。
高精度の測定が可能ですが、サーミスタの様に単体では回路の遮断機能を持ちません。
RTDの測定した温度をTemp Contoller(PIDコントローラ)が計算し、SSRを細かくOFF/ONしてボイラーを指定温度に保ちます。
使用パーツ
PID Controller
型番:SYL-1512A
マニュアル公開あり。動作電源は85V-260V AC/DC。
出力はSSRコントロールの他、アラーム用の端子を装備。
入力は3種類のRTD、8種類の熱電対を選択可能。-200℃から2300℃まで制御できます。
P,I,D,の各制御パラメータも調整可能。自動チューニング機能もあるとか。
おそらくキットに入った同コントローラは、Silviaの熱特性に合わせた値がプリインされていると思います。
自分でそれを行う場合、どのくらい試行錯誤が要るのか見当がつきません。
SSR
これは単純に25A対応の一般的なSSRに見えます。
出力側の耐圧は24-480VAC。
PIDコントローラのSSRコントロール電圧・電流に合わせる必要があります。
SYL-1512Aなら8Vかつ40mAまで。
発熱するため取り付け時はサーマルグリスを使い、ヒートシンクもしくは筐体にて放熱が必要。
RTD
白金=PT100を使ったRTD。
RTDは素材によって規格が分かれるらしく、これもPIDコントローラでの対応確認が必要。
元々使われているサーミスタはKSD301という形状規格。
しかしこの形をしたRTDは他に売られていないようです。
そのまま綺麗に取り付けるならこの製品を買う必要あり。あとは汎用品を買ってどうにかくくり付けるとか。
なんとなく把握
調べた結果、「抽出温度のPID制御だけならなんとかなりそう」という感触を得ました。
現在そのパーツがAliexpressで集まらないか調査中。
スチーム温度の制御も、となるとちょっと難しそう。
というのも1つのRTDで2つの目標値=SVを設定できる特殊なコントローラが必要。
そこから本体のスチームスイッチでどうやってSVを切り替えるのか?見当もつきません。
[KIT-RSPb]ではさらに3方向バルブの制御出力もあります。
SYL-1512Aにはそんな記載は無いため、カスタムファームかもしれません。